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  はじめに

イスラム社会の文化について、人々と話していると、必ずといってよいほど、イスラム教の礼拝のことが話題になります。

そして、そのとき一日に五回の礼拝に関して、「時間的に無理だ」という意見がいつもでます。しかし、実際は時間的に余裕がない場合などは礼拝を簡略して短時間(5 - 10分間)で済ますことができる合理的な礼拝なのです。

毎日礼拝を行っている人は礼拝により精神的に安らぎを得て、その後の仕事がはかどると礼拝の効用を語ってくれます。
 

 

  礼拝(サラート)とは

イスラム教の礼拝はアラビア語でサラートといいます。聖クルアーンの中に、他の教えとともに礼拝の意味が詳しく書いてあります。

イスラム教では、アッラーが唯一の神で、アッラー以外の者を礼拝の対象としてはいけません。礼拝は現世だけでなく、死後の世界にも栄える人間が、しなければならないことのひとつです。

 礼拝と聖クルアーン

アッラーは聖クルアーンの中で、礼拝について次のように述べています。

  1. 礼拝の務めを守り、定めの喜捨をなし使者に従え。そうすれば、あなたたがたは、慈悲にあずかるだろう。(24章57節)
  2. 礼拝の務めを守れ、本当に礼拝は(人を)醜行と悪事から遠ざける。(29章46節)
  3. 礼拝をおろそかにする者に、災いが生じるだろう。(107章)
 

 

  礼拝をする場所

イスラム教の礼拝は家の中でも、職場でも田の中など、どこでやってもかまいません。
しかし、時間的に余裕があれば近くのモスク(礼拝堂)に行き、集団礼拝に参加しなければなりません。

モスクはマスジャドとも言い、イスラム教社会では小さい町でも、あちこちにあります。
日常の礼拝は近くのモスクに行きますが、サラートッル・ジュモア(金曜礼拝)やイードの礼拝のときは、たいてい町で一番大きなモスクに行きます。

モスクでは礼拝はもちろんのこと、聖クルアーンの勉強の場としても、広く利用されています。

※集団礼拝はモスクに限らず、複数人集まれば、やはりどこでやってもかまいません。

 

 

  ウドゥー(手水)

礼拝にあたっては、まず、礼拝する所と礼拝者が清潔でなければなりません。イスラム教では礼拝の前に手や口などを清めることをウドゥーといい、やり方は次の通りです。

ウドゥーのやり方

  1. 手を洗う(3回)
  2. 口に水を含みすすぐ(3回)
  3. 鼻の穴に水をいれそそぐ(3回)
  4. 顔を洗う(3回)
  5. 手首からひじまで、左右の順に洗う(3回)
  6. 手をぬらし額からうしろの方向に髪をさわる。続いて、人差し指で耳の穴をさわる。
  7. 足を洗う(足くびまで3回)

ウドゥーのあと靴下をはいたときは、7に関しては24時間以内(旅行中は3日間)は、ぬれた手で足をさわるだけでよい)

(注)各礼拝の前にウドゥーをしますが、礼拝を2回分まとめたときはウドゥーは一回でよい。


ウドゥーの前の言葉

ビスミッラー ヒッラフマー ニッラヒーム

(訳)慈悲深く、恵みぶかき、アッラーの御名において


ウドゥーの後のことば

アッラー フンマッジアルニ ミナッタッワビーナ
ワジアルニ マナル モタタッヘリーナ


(訳)アッラーよ、我が悔い改め清潔な人になるように。


タヤッムム
タヤッムムは水がなかったり、病気で水がつかえないときに、ウドゥーの替わりに行うもので、きれいな所をさわった手で、顔と手をさわるだけです。

 

 

  礼拝の名称と時間帯

イスラム教では、一日に5回の礼拝が義務づけられており、礼拝の名称は時間により異なっています。

  • ファジャル(Fajar)・・・・・明けがたから日の出まで
  • ゾフゥル(Zohar)・・・・・正午から昼すぎまで
  • アッサル(Asar)・・・・・昼すぎから日没まで
  • マグリブ(Maghrib)・・・・・日没直後
  • イシャ(Isha)・・・・・就職前

(注1)日の出、日の入り、正午は礼拝してはいけない。 
(注2)旅行中、またはやむをえない場合はゾウゥルとアッスルは日没までに、マグリブとエシャは就寝までに、まとめて行ってもよい。

 本日の礼拝時間
 

 

  アザーン

集団で礼拝する際に、礼拝への呼びかけとしてアザーンがあります。
モアッゼン(呼びかける人)がカーバ(メッカにある神殿)に向かって、大きな声でゆっくりと次のように朗唱します。

アッラーホ アクバル アッラーホ アクバル
アッラーホ アクバル アッラーホ アクバル

アシュド アン ライラハ イッラッラー
アシュド アン ライラハ イッラッラー
アシュハド アンナ モハンマドッラスルッラー
アシュハド アンナ モハンマドッラスルッラー

ハッヤ アラッサラー
ハッヤ アラッサラー

ハッヤ アラルファラー
ハッヤ アラルファラー

アッラーホ アクバル アッラーホ アクバル
ライラハ イッラッラー


(訳)
偉大な神 アッラー(4回)
アッラーの他に神がないことを証言する(2回)
モハンマッドはアッラーの使者だと証言する(2回)
いざ、礼拝の場へ(2回)
いざ、繁栄の場、アッラー(2回)
アッラーの他に神はない(1回)

(注)
朝のアザーンには、ハッヤ アラルファラーのあとに、アッサラート ハイルンメナンノーム(眠りより礼拝を!)を2回つけ加える。

 

 

  イカーマ

集団で礼拝する際に、礼拝の直前にモアッゼンが礼拝堂にいる人々に聞こえるように、アザーンを省略したイカーマを唱えます。
 
アッラーホ アクバル アッラーホ アクバル
アシュハド アン ライラハ イッララー
アシュハド アンナ モハンマドッラスルッラー
ハッヤ アラッサラー
ハッヤ アラルファラー
カッド カーマ テッサラート※
カッド カーマ テッサラート※
アッラーホ アクバル アッラーホ アクバル
ライラハ イッラッラー

(※)の訳
  礼拝が始まる。

 

 

  ラクアト

ラクアトとは、
  • カヤーム
  • ルクー
  • サジダ
  • カーダ
を組み合わせた礼拝動作の「単位」のことです。

各礼拝のラクアトの数は多少異なります。各動作は次の通りです。

1回のラクアトは以下の動作から成り立ちます。     
  • カヤーム・・・カーバに向かって立ち、胸の前で両手を組み、アッラーを奉り、聖クルアーンの一部を唱える。
  • ルクー・・・両手をひざにあて、おじぎをする。
  • サジダ・・・頭を地につけておじぎをする。(2回)
  • カーダ・・・正座のようにすわる。

 ラクアトの回数

   スンナ(前)  ファラド  スンナ(後)  ウェトル
 ファジャル  2  2  -  -
 ゾフゥル  4  4  2  -
 アッサル  -  4  -  -
 マグリブ  -  3  2  -
 イシャ  -  4  2  3

旅行中、または礼拝をまとめてする場合、ファジュル以外スンナは前後ともしない。
また、ファジュルとマグリブのファラドはそのままやるが、その他は半分でよい。
 
ファラドの礼拝はイスラム教徒に義務づけられたものです。
イマーム(導師)の指導のもとに参拝者がいっしょに礼拝をおこないます。

スンナの礼拝はムハンマド預言者(彼に平安あれ)がファラドの礼拝の前、または後に捧げるのを常としていたので、義務の礼拝以外は教徒各自が別々におこなっています。

ウェトルの礼拝はイシャ(就寝前)の後におこないます。

ナフルの礼拝は随時です。ただし、ファジュルのあと、日の出までと、アッスルのあと日没まではおこなってはいけません。
 

 

  礼拝

礼拝はラクアトの動作とともに、祈りの言葉をとなえます。

礼拝(サラート)-祈りの言葉の読み方と日本語訳.pdf
 

 

  礼拝の心得

礼拝にあたっては、次のようなことを心がけなければなりません。

身を清めること(ウドゥー)はもちろん、礼拝する所を清潔にする。

できるだけ集団で礼拝する。

モスクで集団礼拝の始まるまで、心の中で主の御名を唱念して待つ。

礼拝堂で集団礼拝が始まれば、各自の礼拝をやめ、集団礼拝を行なう。

礼拝堂には余裕を持って静かに入り、前から順に一列に並んでいく。

イマーム(導師)がファティア章朗唱しているとき、参拝者はその意味を考えながら心の中で唱える。しかし、ファティハ章のあとの朗唱は静かに聞く。

イマームが節を忘れた場合、参拝者がその節を言ってもよい。
また、
イマームが礼拝の動作をまちがった場合は参拝者がスブハーン・アッラー(アッラーの栄光をたたえまつる)と言い、イマームはその動作をやり直す。もし、やり直さなかったら、参拝者はイマームの方に従う。

参拝者の前を横切ってはいけない。

女性も集団礼拝に参加してよい。しかし生理中や、出産のあと通常の生活に戻るまでは、すべての礼拝を行わない。
 

 

  礼拝の種類や名称

イスラム教の礼拝は、1日5回の礼拝とは別に特定の行事にも礼拝を行います。

サラートッル・ジュモア (金曜日の礼拝)

イスラム教では金曜日は聖なる日です。
祝日のように身を清めて、着飾って正午すぎに礼拝堂に集まり、サラートッル・ジュモアを行います。
病人・婦女子・幼児・旅人などは、本人の都合にまかされますが、健康な成人なら合同礼拝に行きます。

まず、イマームが参拝者に向って、フトバ(説教)をします。それが終わるとイマームの指導のもと、2ラクアトの礼拝がおこなわれます。フトバの間、みんな静かに聞き、お互いの話はやめます。

サラートッル・ジュモアの前後はゾフゥルの礼拝と同じように、スンナをおこないます。この合同礼拝に参加できなかった人は通常の礼拝(ゾフゥル)をおこないます。



イードの祝い

イードはアラビア語で、“再びくる日”という意味です。イードの祝いは年に2回あります。ラマダーン(断食)月明けのイードルフィトル、そして、その10週間後をイードル・アドフィーヤといい、日本のお正月のようにみんなが楽しみにしている祝日です。

イードル・フィトル
ラマダーンの月に断食をすることは、イスラム教の五つの実践の柱のひとつです。ラマダーンの最終日の夕方、西の空に出てくる月をみんなで待ち、月を見つけると「見えた!見えた!」と感嘆の声をあげて、イードの祝いの準備にとりかかります。

その日は夜を徹してモスクや大通りはもちろんのこと、各自の家の飾りつけをします。
翌朝(イードの日)は、身をそろって集団礼拝に出かけます。

主婦は朝早くからごちそうを作り、それを子どもたちが近所の家に配る習慣があります。また、親戚や近所の家を訪問しあい、プレゼントを交換したり、子どもたちはおこづかいをもらったりして、楽しい一日を過ごします。

イードル・アドフィーヤ
イードル・アドフィーヤはアブラハムを預言者が自分の息子イスマエルをアッラーにささげようとした記念の日です。
イードル・フィトルと同じように祝いますが、この日は動物をいけにえとしてアッラーにささげ、みんなで分けあって食べます。このイードルは3日間祝います。

イードの礼拝
それぞれの町の都合により、イードの礼拝の時間(午前中)が決められます。
イマームの指導のもとに2ラクアトの礼拝を行います。この礼拝の前にはアザーンもイカーマも行いません。

礼拝の内容は金曜日の礼拝と同じですが、この礼拝に“アッラー ホ アクバル”ということばをたくさん付け加えます。スラ・ファティハの前に、第1ラクアトでは7回、第2ラクアトでは5回、それぞれつけ加えます。

礼拝後、イマームがみんなの前に立ってフトバ(説教)をします。
それから、参拝者はお互いにイードのあいさつ“イードムバーラク”と言いながら、だきあう習慣があります。これは、今までの誤解などを水に流し、これからは兄弟のように仲良くつきあっていこうということを意味しています。


カスル(旅行中の礼拝)
旅行中は通常の礼拝を短くしておこない、これをカスルと言います。旅行中のラクアトの回数は次の表の通りです。

旅行中の礼拝表

   スンナ(前)  ファラド  スンナ(後)  ウェトル
 ファジャル  2  2  -  -
 ゾフゥル  -  2  -  -
 アッサル  -  2  -  -
 マグリブ  -  3  -  -
 イシャ  -  2  -  3

(注)近くても市外に出た場合も旅行になりますが、旅行中でも集団礼拝の場合はイマームが通常の礼拝をおこなえば、それに従わねばなりません。
しかし、旅行者がイマームになる場合はカスルをおこないますが、旅行者は通常の礼拝をおこないます。
ただし、15日以上、同じ所に滞在する場合は通常の礼拝をします。


ジャムア
礼拝をまとめてやることをジャムアと言います。旅人や病人はもちろん、大意風などの天候不良のときや、いろいろな個人的理由などやむをえない場合は、二つの礼拝をまとめて行ってもよいことになっています。

ゾフゥルとアッスルの礼拝を正午から日没までの間に、また、マグリブとイシャは日没後から就寝までの間にまとめてやります。なお、サラートッル・ジャモアでは前後のスンナはやりません。


タハジュド
タハジュドは随意の礼拝で、夜明けまでに2ラクアトから8ラクアトまで、自分の都合にあわせておこないます。


サラーットッル・クスーフ・ワ・フスク
この礼拝は日食や月食になったときに行うもので、多くの信者がモスクに集り、2ラクアトの集団礼拝をおこないます。それぞれのラクアトにルクーを2回おこないます。


サラットッル・ジャナーザ
これは葬儀の礼拝で、死者をとむらい、冥福を祈るらめにおこなうものです。遺体を清めて白い布で包み、広い所へ運んで行き、台の上におきます。
参列者は奇数の列に並び、立ったまま5分間祈ります。
この礼拝のときは、アザーンやイカーマ、ルクー、サジダなどをしてはいけません。
イスラム社会ではジャナーザーに参列した人が墓地まで行くのは望ましいことです。葬列に出会った人は道を譲る習慣があります。

 

 

  さいごに

イスラム教徒を「ムスリム」と云いますが、ムスリムには義務的な行為があります。これを「イバーダード」(行)とわれわれは呼んでいます。これは本来宗教上の儀式の意味です。
  1. シャハーダ(信仰告白)
  2. サラート(礼拝)
  3. サウム(断食)
  4. ハッジ(巡礼)
  5. ザカート(喜捨)
この五行をムスリムは忠実に実践しなければいけません。

二番目の義務行為サラート(礼拝)は、ムスリムは常に礼拝を通してアッラーの偉大さに精神的交流を感ずるわけでありますから、非常に重要義務行為であります。

われわれムスリムは一日に五回の礼拝を義務づけられております。